敷島ファームが担うSDGsⅢ ~耕畜連携による荒廃農地の復活とサステナブルな農業~
サステナブル 投稿日:2023年02月08日敷島ファーム厚真牧場(北海道厚真町)は、280haという広大な敷地を有する牧場です。厚真牧場はこの広大な敷地を活かし、放牧場として運用しています。
当社が厚真牧場の利用を開始した当初、敷地の多くが荒廃農地となっていました。長年利用されずにいたことにより、雑草や雑木が生い茂り、容易に放牧できる状態ではありませんでした。
牛を安全に放牧するためには、これらの雑草・雑木を除去してから耕起し、牧草の種を蒔き、牛が逃げないように牧柵で囲う必要があります。
敷島ファームでは厚真牧場の荒廃した農地復活にあたり、自社整備と並行して平成24年(2012)より、耕畜連携の完成形ともいえる取り組みを株式会社I Loveファーム日胆様とともにおこなっています。
I Loveファーム日胆 ~I Loveファーム(以下ILF)は日本最大規模のブロッコリー露地栽培を運営しており、日本各地に拠点農園があります。遊休地や耕作放棄地をしっかりと整備し、農園として復活させる取り組みにも力をいれています。敷島ファームと連携するILF日胆は、北海道むかわ町にあるILFの拠点農園の一つです。
280haのローテーション
放牧場は敷地を複数の区画(牧区)にわけ、牧草の生育状況にあわせて牛を移動させていきます。厚真牧場では280haに及ぶ広大な敷地を複数の区画にわけています。
当時の厚真牧場は上の図のように、放牧場として利用している区画と、長年利用されずに荒れてしまった区画がありました。
そこで、厚真牧場の土地を放牧区と農園区に分け、放牧区は当社にて利用&整備、農園区は荒廃地復活に実績のあるILF日胆様に3年の期限でお預けしました。
放牧区の整備は当社、農園区はILF日胆様にて手分けすることにより、荒廃した農地は加速度的に復活していきました。
土壌を知り尽くしたILF日胆様の技術はとても素晴らしく、取り組みを開始してから3年後には荒廃した農地は見る影もないほどに整備されました。
普通は「荒れた農地を堆肥を利用して農園として復活!」で完了になりますが、ILF日胆様と当社の耕畜連携の完成形ともいえる取り組みは、ここからがスタートになります。
契約期間中、農園区はILF日胆様にて整備とブロッコリー栽培に利用されます。放牧区では当社の牛が放牧されていますので、日々牛たちが歩きながら草を食み、排せつをしています。
3年目の契約満了時に、牧草の種を蒔いてからお返しいただきます。かわりに放牧場として利用していた区画を新たな農園区としてILF日胆様にお預けします。そして新たな3年がはじまります。
当社はILF日胆様により、しっかりと敷き均され牧草が生い茂る土地に放牧、ILF日胆様は放牧中の牛から排せつされた牛糞が牛たちにより漉き込まれ、豊かな土壌となった土地を利用することができます。
農園にとって、同じ土地で長年栽培を続けていくためには、連作障害対策や土づくりが大きな課題となっています。特に肥料や燃料などあらゆるものが高騰している現代において、これらの課題はより一層厳しさを増しています。
また、畜産農家では牛たちが排せつした糞尿堆肥を熟成堆肥にしなければなりませんが、熟成には時間と経費がかかります。熟成堆肥を耕畜連携農家まで輸送するコストも大きな負担になります。
厚真牧場での280haという広大な敷地を区画ごとローテーションという大規模な耕畜連携により、これらの課題を一度にクリアすることができました。
耕畜連携とは、畜産農家が良質な堆肥を提供し土壌改良・土づくりに利用し、耕作農家は作物(飼料米やデントコーンなど)を栽培し、収穫した稲わらや飼料稲サイレージ※などを家畜に給与するしくみをいいます。※飼料稲を発酵(サイレージ)させた飼料。
当社でも地元耕作農家とともに耕畜連携に取り組んでおり、連携規模も年々拡大しています。畜産農家は良質な国産粗飼料の安定供給、耕作農家は良質な牛ふん堆肥での土づくりと収入確保につながる耕畜連携は、持続可能な農業のありかたとして、今後ますます注目されていきます。
厚真牧場におけるILF日胆様との構築連携は、一般的な耕畜連携のように飼料作物の供給を毎年受けるものではありませんが耕畜双方にとって無理なく持続可能な連携となっています。
牛たちが広大な放牧地でのびのびと過ごしながら、ゆっくりと時間をかけて土づくりをおこなってくれますので、堆肥製造や輸送で発生する化石燃料由来の温室効果ガスが削減されます。もちろん経費面でも助かります。
大規模区画のローテーションにより、定期的に牛たちが土づくりした豊かな土壌に更新される厚真牧場での耕畜連携は、ILF日胆様からもご賛同いただいており、現在も継続されています。
このように、人・牛・農作物・環境・経費のあらゆる面において有効な、敷島ファームとILF日胆様との取り組みは、耕畜連携の一つの完成形であり、サステナブルな農業の代表的な取組みといえます。
糞尿堆肥と牛ふん堆肥(熟成堆肥)について
牛舎で飼育する場合、牛たちが足や体を痛めないように、床にはオガクズやバーク(樹皮)を敷きつめますが、これらを敷料といいます。
牛たちは日々敷料の上に糞尿をしますので、定期的に牛舎から出して交換しますが、牛舎から出されたばかりの糞尿を含んだ敷料を「糞尿堆肥・生堆肥」と呼びます。
堆肥は土づくりにかかせませんが、「糞尿堆肥・生堆肥」そのまま大量に田畑に入れると、その場で発酵がおこり、発芽障害や枯死など悪影響を及ぼすリスクや、未消化種の発芽リスクがあります。
そのため「糞尿堆肥・生堆肥」に空気を送り込み、80℃くらいまで温度を上げて発酵させ、雑菌や飼料由来の草種を死滅させる“熟成”作業を3~6か月ほどおこない「熟成堆肥」にします。
しっかり熟成された敷島ファームの「熟成堆肥」は、自社農園や放牧場で利用するほか、提携する稲作農家へ提供し、稲わらや飼料稲サイレージ(WCS)を受け取る耕畜連携事業でも活躍しています。
なお、放牧中に排せつされた糞尿は、常に牛たちに踏み込まれることにより、ゆっくりと時間をかけて土壌の養分となっていきます。もちろん未消化の種があっても牧草地なので問題ありません。
放牧
放牧は春から秋にかけて繁殖母牛を対象に実施されます。元気な子牛を産み育てるためには、新鮮な牧草を食み、ゆったりのびのびとすごし、適度に運動ができる放牧が一番です。
また、わたしたち飼育者にとっても、放牧期間中は牛舎修繕や衛生対策などにしっかりと時間をかけることができますので、放牧はとても重要です。
近年は敷料に必要なオガクズやバークの流通量や価格が厳しい状況になっています。これは世界的な炭素削減方針により、カーボンニュートラル燃料とされる木材の需要が高まっていることが大きな要因となっています。放牧により敷料利用量が減りますのでとても助かります。
このように、放牧は牛にも人にも財布にもやさしい取り組みといえます。