敷島ファームが担うSDGsⅤ ~ペレット堆肥で実現する広域連携と有機農業の促進~
サステナブル 投稿日:2024年05月07日敷島ファームでは、国産飼料の確保・堆肥の利活用・環境配慮した循環型農業・農地の利活用・営農者の収益確保・土壌の有機化促進など、様々な面で有効な耕畜連携に取り組んでいます。
※耕畜連携やこれまでの取組みについては下記をご覧ください。
敷島ファームが進める地域連携 ~耕畜連携・西郷村飼料稲推進協議会~
敷島ファームが担うSDGsⅣ ~耕畜連携で地域活性化とGHG削減~
耕畜連携では養牛農家が良質な牛ふん堆肥を耕作農家へ提供し、耕作農家はその堆肥を利用して土づくりをおこない、収穫した飼料稲/WCS(ホールクロップサイレージ/発酵粗飼料)を養牛農家へ納品します。
養牛農家は堆肥の利活用先と国産WCSの確保、耕作農家は良質な堆肥と生産物の販売先確保というようにウィンウィンな取組みになります。地域全体にとっても耕作放棄や離農による荒廃・過疎を防ぐ有効な取組みとなりますので、各地で複数の農家や行政が参加する耕畜連携協議会などが活動しています。このように様々な利点がある耕畜連携ですが、『牛ふん堆肥の流通』『牛ふん堆肥の施肥』という点で大きなハードルがあります。
小規模農家では袋入り堆肥の利用が一般的ですが、耕畜連携に参加する規模の農家ではトン単位で供給となり、輸送はダンプ車が中心になります。しっかりと熟成された牛ふん堆肥は少ししっとりとした土状になります。熟成堆肥には空気や水分が多く含まれますので、容積の割には多くを輸送できません。そのため、大量に運ぶにはダンプで何往復もする必要がありますが、輸送効率はあまり良いとはいえません。ダンプは化石エネルギーを燃焼=CO2を排出して動きますので、地球環境への配慮という点からも、長距離を何往復もするような輸送はマイナスポイントとなります。
また、土状の熟成牛ふん堆肥を田畑へ施肥するには、土状の堆肥を破砕しながら散布する堆肥専用散布機(マニアスプレッダー)が必要となります。従来から牛ふん堆肥を利用している農家では所有していますが、一般的な化成肥料(粉状や粒状の肥料)を利用している農家では所有していない場合があります。堆肥専用散布機は一般的な施肥機器(ブロードキャスター等)と比べ、大型で機材価格も高額となりますので、堆肥専用散布機を所有していない農家や小規模農家への提供は困難となります。
敷島ファーム那須牧場では2014年から隣町の西郷村にある飼料稲推進協議会(十数軒の農家が参加)と耕畜連携をおこなっていましたが、白老牧場では堆肥輸送などの観点から連携が困難となっていました。輸送距離が数kmから十数kmの範囲におさまる那須と異なり、白老牧場から北海道で稲作が盛んな地域(石狩平野、岩見沢や月形など)へは100km前後の距離があり、この長距離輸送が課題となっていました。そのため輸送効率の改善が急務となっていました。
堆肥のペレット化
①ペレット化で長距離輸送が可能に
堆肥はペレット化(圧縮)することにより容積・重量が大幅に減少します。堆肥の状態や圧縮状況によりますが、一般的にはペレット化する前と比較して、容積は40%前後まで減少し、重量についても60%前後まで減少します。流通は主に車両による輸送が中心となります。ペレット堆肥は容積や積載量が制限される車両輸送において、台数の削減や小型化など効率的な輸送が可能となります。そのため、従来は難しかった長距離輸送にも対応することが可能となります。
②施肥が容易に
土状の牛ふん堆肥は一般的な農家が利用している化成肥料など、粉状や顆粒の肥料を散布する機材(ブロードキャスター等)では散布ができませんでしたが、ペレット化することにより特殊な散布機を必要としなくなります。そのため、耕畜連携だけではなく、小規模農家などにも提供することが可能となっります。
③輸送時に発生する温室効果ガス(GHG)の排出削減
流通の効率化は輸送時に発生するGHG排出の削減にもつながります。今まで2台で運んでいたものが1台ですみますので、必要な化石燃料も半分になります。国際的なCO2排出計測方法で、敷島ファームでも採用しているGHGプロトコルでは、生産物の供給に関するCO2排出についてもスコープ3の間接的な排出として計測されます。ペレット堆肥の輸送はこのスコープ3に該当しますので、ペレット化による輸送時のCO2排出量が半減することは、地球環境にとっても有効な取組みとなります。
堆肥化システムの導入と運用開始
耕畜連携を検討していた敷島ファーム白老牧場では、堆肥のペレット化による輸送効率向上による耕畜連携範囲の広域化に着目し、ペレタイザーと堆肥発酵コンポで構成される堆肥化システムの導入を決定しました。
日々排出される牛ふん堆肥は、堆肥舎で3カ月から半年かけ何度も切り返しながら、70℃前後まで温度を上げ発酵させることにより、熟成堆肥へと仕上げていきます。発酵は大腸菌を発酵熱で殺菌するなど、良質な堆肥を製造する為に必須な工程ですが、とても手間がかかります。そして、発酵の際には一酸化二窒素(N2O)などのGHGも発生しますので、ゲップなどのメタンガスと並び養牛における課題の一つとなっています。
堆肥発酵コンポは密閉型の自動撹拌槽で発酵させることにより、短期間(数日~1週間程度)で熟成(=発酵)が完了します。自動でおこなわれますので手間も軽減し、発酵時に発生するGHGもCO2換算で約1/4(メーカー公表値)に削減されるなど、人にも地球環境にもやさしいシステムとなっています。
2023年春からペレタイザーと堆肥発酵コンポで構成された堆肥化システムの導入を進め、同年秋からペレット堆肥の製造を開始しました。
堆肥化システムの工程
①牛舎から搬出した糞尿堆肥(生堆肥)をコンポに投入
②糞尿堆肥を堆肥発酵コンポの密閉槽で発酵
③発酵が完了した熟成堆肥を粒状分離(異物等の除去)
④粒状分離後にペレタイザーへ投入してペレット化
岩見沢市の稲WCS生産団体との耕畜連携開始
様々な課題により耕畜連携が困難だった白老牧場では、堆肥化システムの導入により耕畜連携が可能となりました。2023年から岩見沢市の稲WCS生産団体(WCS/ホールクロップサイレージ/飼料稲発酵粗飼料)との耕畜連携が開始されました。白老牧場から岩見沢市までは100km前後ありますが、ペレット化による効率的且つ容易な輸送が広域連携の実現へとつながりました。今後はペレット堆肥の生産量アップや品質向上を進め、広域耕畜連携先を広げていきます。
地球環境にやさしい有機農業
牛ふん堆肥は土を豊かにし土壌の有機化を促進します。牛ふん堆肥の原料は牛ふんと敷料(牛舎床に敷くオガや木くず、ワラなど)になります。これらを熟成し堆肥化、施肥することにより土壌有機物となります。土壌有機物は作物への養分や土壌の保水など重要な役目を担います。
土壌有機物は土壌有機炭素となり長期間土壌中に貯留されます。有機炭素として固定されることにより、大気中の炭素が減少します。このように牛ふん堆肥を利用した有機農業は地球環境にもやさしい農業となります。
堆肥化システムから始まる敷島ファームのGX
敷島ファームでは2024年にGXプロジェクトを専門とするGXエナジー事業部を設立しました。今までは各部署において検討・推進されてきたGX事業や関連事業をGXエナジー事業部に統合することにより、加速度的なGX推進を目指すものとなります。
GXとは、Green Transformation(グリーントランスフォーメーション)の略称で、化石由来のエネルギーから太陽光発電などのクリーンエネルギー中心へと転換し、経済社会システム全体を変革しようとする取り組みを指します。
低GHGで製造する熟成堆肥や耕畜連携・有機農業の広域化など、多方面に有効な敷島ファーム白老牧場の堆肥化システムですが、一点だけマイナスな部分があります。それは、これらの設備を稼働するには電力が必要であり、現在白老牧場では電力を購入しているという点になります。
購入電力は間接的なCO2排出になりますので、低GHGで堆肥を生産し土壌の有機化へ貢献しても、化石燃料由来の電力を購入して稼働している以上、敷島ファームが推進するゼロカーボンビーフプロジェクトにとってマイナスとなります。
そこで、購入電力から自家発電型の自然エネルギーへの転換=GXの推進強化を決定しました。現在GXエナジー事業部では、堆肥化システムで使用するエネルギーを施設屋根や敷地内に設置した太陽光発電により100%自給する自家消費型発電システムについて、2024年度内の着工を目途に現在関係各社と協議を進めています。
自家消費型発電システムは間接的なCO2の排出削減だけではなく、大規模な災害発生時の備えにもなります。停電時は自社はもとより、自治体や近隣への電力供給も可能となります。
耕畜連携は地域農政が推進する農地利活用、耕作農家の収入確保・堆肥確保、畜産農家の飼料確保のように、地域・耕作農家・畜産農家の3者が全て潤う循環型農業です。そして、地球環境にもやさしい取組みになります。
農業におけるSDGs・持続可能な農業の一環として、これからも私たちは耕畜連携を推進していきます。