先進技術とこれからの畜産Ⅴ ~ゲノミック評価による牛群改良の成果について(中間報告③)~
ゲノミック評価 投稿日:2024年06月01日2017年よりゲノミック評価による牛群改良を行ってきた成果の中間報告③になります。いままでの足跡は活動報告の記事をご覧ください。
資料aは敷島ファームの2023年生まれの雌牛について、ゲノミック評価による枝肉6形質を全国の雌牛と比較した資料になります。
資料a
順調に改良がすすみ、BMS・歩留・ロース芯が底上げされ枝肉6形質の差が小さくなってきました。劇的なアップは見られませんが、これはゲノミック評価による牛群改良を開始した当時と異なり、現在では全国平均以上となるH・A・Bの割合が生産子牛の7割を占めるほどに改良が進んだことによります。
全国の牛群も年々改良が進んでいます。敷島ファームのようにゲノミック評価による改良を導入する方が増えてきましたので、今後ますます全国雌牛基準集団の能力も向上していくと思います。
また、CやDであっても受胎率が高く分娩時事故が無い高生産性の牛はそれ自体が一つの能力といえます。今後はそのような形質についても実用化できればと考えています。
資料bは生年別のゲノミック評価値の推移になります。全国平均値が0になります。GEBVとはゲノミック推定育種価(Genomic Estimated Breeding Value)といい、従来の産子成績から評価した推定育種価(EBV)に対し、従来の育種価にゲノム情報を加えて評価した値がGEBVになります。
資料b
平均値が0になります。プラスは優れた牛、マイナスは劣っている牛になります。データは日々更新され精度が増していきますので変動していきますが、現時点においては2022年生まれから全形質において全国平均を上回っています。
皮下脂肪のみ2023年は下がっています。皮下脂肪は薄いほうが良いので、本来はマイナス値の方が良いのですが、見やすいように逆数にしています。2023年生まれはマイナス方向になっていますので、皮下脂肪が厚くなる傾向に推移したことになります。改良が進むと常に向上することが難しくなってきます。ゲノミック評価により精度の高い交配をおこなっていても、このように下降してしまう場合があります。
資料Cは枝肉重量とDG(日齢枝肉重量)のゲノミック評価による能力値の推移になります。こちらの値はkgになります。
資料c
2023年生まれの0.025は全国平均比0.025㎏/日、つまり全国平均よりも1日あたり25g体重が増えることを示しています。例えば当社の26カ月(790.4日)齢出荷の場合、790.4日×25g=19760gとなります。これは26カ月齢で出荷した場合、全国平均比19.8㎏大きくなる能力があることになります。
また、一般的な肥育農家では肥育去勢を27~28カ月齢前後で出荷し、枝肉重量は510~520㎏前後といわれていますが、この場合のDGは0.611(520㎏÷851.1日)となります。この値を基準とした場合、2023年生まれのDGは0.636(0.611+0.025)になりますので、520㎏÷DG0.636=817.6日=26.9カ月となります。つまり1.1カ月早く出荷しても同じ枝肉重量になることになります。
早期出荷は牛舎回転率や経費面でのメリットに注目されがちですが、温室効果ガス(GHG)排出削減としても効果が高い取組みと捉えています。ゼロカーボンビーフの実現を目指す敷島ファームにとって、ゲノミック評価による牛群改良はGHG削減の為にも有効な取組みとしてこれからも推進していきます。
敷島ファームでは6~7産、おおよそ8~9歳を目安に繁殖雌牛を更新しています。2017年から開始されたゲノミック評価による牛群改良は、2018年に当時飼育されていた母牛全頭の能力を把握、ゲノムによる交配と選抜が始まりました。2019年頃からゲノミック評価を利用した交配による第1世代が生まれ、母牛群の更新が開始されました。8~9年で母牛が更新される敷島ファームにとって2023~2024年は、牛群改良のちょうど中間地点となります。
資料dは繁殖母牛の更新の進捗になります。ゲノミック評価による牛群改良前と、中間地点となる2024年の比較になります。
資料d
ゲノミック評価による牛群改良の”牛群”は繁殖母牛になります。つまり、上記がゲノミック評価による牛群改良のもっとも重要な成果判断となります。全国平均以下となるC・Dが明らかに減少し、H・A・Bが大幅に増加しています。全国の雌牛群も改良が進む中、ゲノミック評価による牛群改良により、追いつき追い越す勢いで改良が進む状況は、家畜改良事業団の方からも『進み過ぎくらい進んでいますね』との評価をいただいています。
ゲノミック評価による牛群改良は、従来の育種価を利用した改良では難しかった繁殖母牛群の改良について、着実に成果をあげています。繁殖母牛群の改良は優秀な肥育素牛の供給や、高品質な黒毛和牛の安定供給へとつながります。また、前述のように肥育期間の早期化によるGHG排出削減にもつながります。敷島ファームではこれからも、ゲノミック評価を利用した牛づくりを推進するとともに、新たな形質の解明に向け、わたしたちが出来ることをおこなっていきます。
○本ページ掲載資料は(一社)家畜改良事業団提供、又は提供データをグラフ化したものになります。