先進技術とこれからの畜産 Ⅱ 〜ゲノミック評価による牛群改良の成果について(中間報告)〜
ゲノミック評価 投稿日:2022年02月20日交配による牛群改良は、特定の血統から生産された牛の肥育成績を蓄積したデータ(後代検定による育種価)から、その血統の能力傾向を導き出し、その情報をもとに交配し改良していく方法で、敷島ファームでもこの方法により牛群改良をおこなってきました。
しかし、この方法は情報の蓄積までに時間がかかる点や、兄弟など血統が同一時の個体差を考慮できないなどの問題がありました。
そのような中、黒毛和牛においてDNA情報を利用した「ゲノミック評価」が確立されつつあるとの情報を得た敷島ファームでは、2017年より一般社団法人家畜改良事業団(LIAJ)との共同研究を通して、「ゲノミック評価」という新たな技術を利用した牛群改良に着手しました。
DNA情報は個体ごとに微妙な違いがあります。その箇所を膨大に蓄積されたDNA情報と比較分析し、遺伝的な能力を特定、その能力値をもとに改良・改善させたい形質を“個々の牛ごと”に検証し交配を決定する改良方法を「ゲノミック評価」を利用した改良といいます。
人が兄弟で個性があるように牛にも個性があります。従来の評価方法ではその区別ができませんでしたが、「ゲノミック評価」では個体ごとの個性を評価することにより、的確な交配選択によるスピーディな牛群改良が可能となりました。
敷島ファームでは初めに、飼養中の繁殖母牛全頭(約4500頭)のDNA解析を実施しました。これにより現状の能力把握と「ゲノミック評価」を利用した改良の方針を決めました。
評価は従来の評価方法と同様に、枝肉6形質を5段階で表し、それぞれを全国平均と比較されます。H・A・Bが平均以上、C・D平均以下となりますが、ほぼすべての形質において全国平均以下の割合が高いことが判明しました。(資料a)
そこで、能力が低い繁殖母牛や遺伝的リスクのある繁殖母牛の更新を優先的するとともに、次世代母牛の選抜も全て「ゲノミック評価」を利用した改良を進めました。
これにより保有する繁殖母牛の能力が今までにない速度で改良されていきました。
的確な交配→優秀な子牛→母牛更新→的確な交配→更に優秀な子牛・・・と進むことにより、保有する繁殖母牛の能力が今までにない速度で改良され、優秀な子牛が安定して生まれるようになりました。
資料bは「ゲノミック評価」による成果を表す資料になります。4500頭の繁殖を2~3年で全て更新は無理ですが、的確な交配や優秀な次世代との更新加速により、優秀な子牛が生まれるようになりました。
さらに、2021年に出生した子牛のGEBV(Genomic Estimated Breeding Value:ゲノミック推定育種価)による枝肉6形質及び一価不飽和脂肪酸(MUFA)・オレイン酸の評価値がすべて標準偏差0以上になりました。(資料c)
このように、敷島ファームでは「ゲノミック評価」による牛群改良に取り組んだことにより、牛群が着実に改善され、出生子牛の能力値も全形質において全国平均水準以上になりました。
牛群改良は繁殖母牛の劣る形質(マイナス部分)を補う種雄牛を交配し、生まれた子牛から優秀な次世代を選抜して世代交代することにより改良していきます。
出生子牛の能力評価値がすべてにおいて0以上という成果は、今後の改良にとって極めて大きな成果となります。
牛肉の評価はサシ(BMS)や色合いなどの「見た目の美しさ」が重視され、改良も枝肉6形質について進められてきました。ですが、近年ではMUFAやオレイン酸などの「脂肪の質」の改良についても関心が高まっています。低い温度で融解するMUFA・オレイン酸が多く含まれるほど、口当たりがよく、甘みがあると言われ、注目されています。
MUFA・オレイン酸などの脂肪酸は遺伝率が高い傾向にあることから、「ゲノミック評価」を利用した遺伝的な改良が可能な形質となっています。これらの形質は高い精度で改良が可能となっており、その精度の高さは敷島ファームの成果にもあらわれています。
これらの「ゲノミック評価」を利用した急速な牛群改良はLIAJにより詳細に分析され、共同研究の成果として論文やセミナー、専門誌を通して関係機関や畜産農家へ向け発信されています。
敷島ファームでは2022年2月までに約12000検体に及ぶゲノム解析をおこなっており、今後も継続していきます。なお、解析情報はすべて共同研究により提携のLIAJへ提供され、様々な評価形質の精度向上や新たな形質の解明に活用されています。この敷島ファームにおける「ゲノミック評価」による牛群改良の成功事例は、日本の畜産業界全体にとっても価値ある成果となります。
なお、「ゲノミック評価」による改良はあくまでも交配による改良です。遺伝子組み換えのように遺伝子を直接操作するような改良では無いことをこの場を借りて申し添えいたします。
★成果については、日経ESGでも紹介されています。
https://project.nikkeibp.co.jp/ESG/atcl/column/00007/041400057/